『君たちはどう生きるか』を観た人の中には、
「え?なぜ突然いなくなったの?」
「塔の異世界に行った理由がわからない」と夏子の行動に戸惑った方も多いはずです。
彼女は主人公・眞人の義理の母でありながら、中盤で突如姿を消し、最終的には搭の中野異世界で再登場していました。
この記事では、夏子が塔の異世界へ行った理由3選をわかりやすく解説していきます。
夏子が塔へ行った理由①|眞人を大伯父の“跡継ぎ”から守るため

物語の中で、塔の異世界を創ったのは“曽祖父”にあたる大伯父。
自分の死期が近づいていると悟った彼は血縁者である眞人に、自らの後を継いで“世界のバランスを保つ者”になるように迫ります。

積み石を積んでほしいって眞人に言ってたよね
しかしそれは、ある意味で「現実世界を捨て、下の世界に閉じ込められる人生」を意味する選択。
ここで重要なのが、夏子もまた大伯父の娘=“血縁者”であること。
彼女は、眞人がこの異常な宿命を背負わされるのを感じ取り、自分が先に塔へ行ったのではないか?
つまり
- 大伯父が眞人を後継者にしようとしていることを察知
- 自分がこれから生む子を跡継ぎとして差し出す
- 眞人がこの現実で「どう生きるか」を選べるように、彼を守ろうとした
このように考えると、夏子が搭へ行った理由は「母としての眞人(姉の子)を守る意志表示」とも言えそうです。
夏子が塔へ行った理由②|現実からの“精神的逃避”だった説
もう一つの考え方として、夏子自身が現実に限界を感じて逃げた”という解釈もありえるなと思っています。
彼女が置かれた状況は、
- 亡き姉の夫との家のつながりを背負った再婚
- 眞人との微妙な距離感
- 体調不良による出産や赤ちゃんの命の危機
- 夫・勝一が寝室でタバコを吸うことへの嫌悪感
こうしたものが積み重なって、心と身体が限界を迎えたのではないかという読みです。
塔=“現実からの逃避先”
夏子=“苦しさから逃げたいと無意識に願ってしまった人”
という構図で見ると、夏子の行動は非常に人間的でリアルな苦悩の現れと捉えることもできそうですね。
夏子が塔へ行った理由③|眞人を旅立たせる“必要な行動”だった説


ちょっと変わった視点から見ると、夏子の失踪は眞人の成長の物語をスタートさせる“スイッチ”だった気がします。
夏子が突然いなくなったことで、
- 眞人は「なぜ?」「助けなきゃ」と塔へ向かう
- 物語が“現実”から“異世界”へ動き出す
- 自分の意思で選び取る旅が始まる
つまり、夏子は「意思」よりも「役割」を優先されたキャラクターなのかもしれません。
ただ眞人は最初から夏子を「助けなきゃ!」とは思っていませんでした。
夏子を助けようと思ったのは実の母・久子からの贈り物【君たちはどう生きるか】の小説を偶然見つけて読んだからです。
この小説を通して死んだ母・久子から≪自己中心的な考えを改めて自分で考え、行動し大人になっていってほしい≫というメッセージを受け取った眞人。
最初はスルーしていた夏子の搭へ行くという不可解な行動をみて、連れ戻すという使命をもったのはこの小説の影響でしょう。
眞人を搭の異世界へ呼んだアオサギの正体や目的についてはこちらの記事で解説しています>>
夏子の寝室にタバコがあったのはなぜ?
夏子の寝室からタバコを盗んだ眞人。
しかし作中で夏子が実際にタバコを吸う場面は登場しません。
ただ彼女の部屋には灰皿も置かれ、喫煙を想起させるような描写があります。
これは妊婦である夏子が吸っていたのではなく、恐らく夜遅くに帰宅していた【父・勝一が吸ったタバコ】であると考えるのが妥当です。
「妊婦の前でタバコをすうこと」自体今ではタブーとなっていますが、昔の日本では男性がタバコをすうのに気を遣うという状況は少なかったのではないでしょうか。
この映画を見た方からは父・勝一が気持ち悪い・やばいといわれておりその理由についてはこちらの記事で徹底解説しています>>
「タバコをのむ」っていうセリフ表現はどういうこと?
宮崎駿監督はタバコを吸うことで知られていますが、たくさんのジブリ作品の中でもタバコを吸う描写があるのはご存じですか?
【君たちはどう生きるか】でも、じいやとばあやがタバコが好きで、眞人がタバコを渡すのと引き換えに刀の研ぎ方を教えてもらうなど、作中にもタバコが出てきていました。
そんな中セリフの中に「タバコのみは大変だね~」という言葉があるのは聞こえましたか?
私も?と思って調べたところ、【タバコ飲み】ではなく、【たばこのみ(煙草喫)】や【たばこ喫み】とあわされるようです。
意味はそのまま喫煙者のことで、昔からタバコをのむと言われていました。
視聴者の中には「卵をのむ」と聞こえた方もいて、喫煙者じゃないと聞きなれない言葉を使うところは宮崎監督のタバコ好きが伝わってきますね!
君たちはどう生きるか で タバコを吸う人に向けて 「卵飲みは大変だね」 ってセリフがあるんだけど ゲテモノ食いみたいなこと? 卵飲み=喫煙者?
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夏子の“曖昧さ”が観客に問いを残す|どう生きるかは彼女にも向けられていた
夏子というキャラクターには、はっきりとした答えが用意されていません。
- 異世界へ行った理由も
- 眞人へ「大嫌い」といった理由も
- 妊娠していた彼女がどんな未来を望んでいたのかも
でもだからこそ、私たち観客は“わからなさ”に戸惑い、同時に、彼女が問いかけてくるような感覚に陥ります。
「あなたならどう生きるか?」と。
彼女の行動は不安定で、曖昧で、危うい、だけどどこかに強さがある。
けれどそれは、理想化されていない“リアルな人間らしさ”でもあるように感じませんか?